皆様、グリーンインフラという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
この考え方がこれからの社会を作っていくうえで、必要になってくるのではないかと思っています。
ヒノキの枡を使った内装材ブランド「MASPACIO」は地球環境にも優しく、森づくりに貢献し、人々の癒しをデザインする素材でありたいと思っています。
まだその想いの実現には様々なハードルを乗り越えないといけないですが、こういうコラムを通じてまずは、皆様と一緒になって自然素材の活用について考えていきたいと思います。
グリーンインフラとは
国土交通省の資料によると、『グリーンインフラ』とは
「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能(生物の生息の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制等)を活用し、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるもの。」
と記載されています。
またアメリカ人のBenedictoとMcMahon(2001:6)によると、
「グリーンインフラとは私たちの生活を支えるシステムである。それは水路、湿地、森林、野生生物の生息地やその土地特有の種を保護し、自然の生態系プロセスを維持し、大気や水資源を持続させ、アメリカの社会と人々のために健康と生活の質に寄与する野生空間やオープンスペースのような自然エリア(緑道、公園、農場、牧場)の相互連結したネットワークを意味する」
と詳しく定義づけしています。
要するに、自然環境を持続させ活用しつつ、生活の質の向上に寄与するインフラを意味します。
対比されるのがコンクリートなどを使ったグレーインフラです。
このグリーンインフラを活用することでどのようなメリットがあるか事例を踏まえて見ていきましょう。
ポートランド市のグリーンインフラが市民にもたらした健康への影響
ポートランドが取り組んだグリーンインフラ
アメリカのポートランド市はアメリカの住みたい街ランキングでも上位の人気都市であり、環境にやさしい都市としても有名です。
しかし過去には工場の排水による河川の汚染や自動車などの大気汚染という問題を抱えていました。それらをトム・マッコールが州知事になると、環境問題を改善させていきました。それでももう一つ抱えていた問題が、激しい雨が降ると、雨水を処理できず、内水氾濫が起こってしまうということでした。なぜなら市の水道管の45%以上が修繕と必要としており、本来の機能を発揮できていませんでした。そのため、植物を活用し、豪雨によって流れ出た雨水を植物のシステムを活用し、管理し、流出量を減らし、水質を改善する道路であるグリーンストリート、表面流出水を集め、それが地中に浸透し、一部が植生により蒸発散されるという処理の役割を担う緑溝などのグリーンインフラの整備を進めました。
グリーンインフラを導入して起こった都市の変化
結果的に住宅街でグリーンインフラを設置したところ、年間の雨量の流出量を65%も削減できたそうです。さらにポートランド市の資料では、
グリーンインフラによって、市民に健康への主な恩恵として「大気の質」、「精神的健康」「身体的健康」を与えた
と記述しております。
まず自然空間と植物の増加が大気の改善や病気に関わる大気を浄化することによって、直接的に健康を改善すると述べています。植物は二酸化窒素、粒子状物質(PM)、一酸化炭素、二酸化硫黄などの有害汚染物質を吸収します。これらの汚染物質を吸収することにより、喘息、気管支炎などの呼吸器系疾患を軽減することができます。さらに人間の健康への影響を十分に測ることができる理由から、PM10 を大気の質の指標とした調査を行った結果、236,000本の樹木によって、およそ285トンのPM10 が除去され、18歳から64歳までの378,340人の市の人口の中で、呼吸器系の疾患の発生率が18%減少するという調査結果も示しています。つまり大気の質の向上によって、呼吸器系の疾患を予防することができると市は発表しています。
次に運動の促進による身体的健康、ストレス緩和による精神的健康の度合いを高めることができると述べています。樹木、植物などの豊かな緑と身体的健康にはあるメカニズムがあり、それが人の健康を増進させます。緑がウォーキングや他の外での運動を促進させます。なので、エコルーフと呼ばれる屋上緑化、グリーンストリートや街路樹は運動を促進し、身体的健康を増進させます。そして緑は暴力、ADD(注意欠陥障害)、ストレス症状緩和と結びついています。ポートランド市はエコルーフ、グリーンストリートと樹木は精神的健康の向上と結びつきがあるとしており、エコルーフは可視性やアクセシビリティを高めることで、精神的健康への恩恵が増大し、グリーンストリートや街路樹は気晴らしでのウォーキングの推進や社会的つながりを高めることによって、精神的健康の向上に影響すると考えています。
ポートランド市は本来雨水の貯留管理のためにグリーンインフラを導入しました。そして自然を活かしたインフラは本来の役割のほかに、大気の質の向上や運動促進による健康改善、緑の効果であるストレス緩和などでの精神的健康の増大など、市民の健康に寄与しています。
グリーンインフラを日本社会で導入することのメリットとは?
豪雨や猛暑などの異常気象に対応した都市を造る
近年ゲリラ豪雨やこれまで経験しなかった大雨、猛暑などの異常気象が起こっております。
それらの異常気象に現状のインフラでは対応できなくなっています。
グリーンインフラを用いることで、雨水処理をできたり、アスファルトやコンクリートなどのグレーインフラよりも気温上昇を抑えることができます。
人々の健康を促進できる
人々の暮らしが多様になっても、人々の身体的・精神的健康を維持することは重要になります。
生活習慣病患者が近年増加傾向にあったり、新型コロナウイルス感染拡大による心の不安や経済的困窮などが募り、自殺者数が増加に転じる可能性もあります。
その中で、グリーンインフラを街に整備することで、市民への運動を促進させ、ストレスや不安の緩和を行うことができれば、市民の生活の質の向上に繋がります。
グリーンインフラが生活を守り、向上させる
私たちはこれまで経済の発展を目指し、様々なことを犠牲にしてきました。それが今、地球の気候や人々へ多くのストレスを与えています。
今後100年、200年続く持続的な社会を目指し、グリーンインフラを整備することは必要ではないかと思いました。
そして、ヒノキを扱うMASPACIOはグリーンインフラの一部を担うことは現状としては難しいですが、室内空間でヒノキの香りやぬくもりを活かし、空間にいる人たちに安らぎを与えることのできる素材になりたいです。そして国産ヒノキの需要を増加させ、林業が活性化し、日本の森が健全な状態で手入れされていく社会を目指したいです。
[参考文献]
・Benedict, Mark A. y MacMahon, Edward T. Green Infrastructure: Smart Conservation for the 21st Century, Sprawl Watch Clearinghouse, Washington DC., 2001, p.6. http://www.sprawlwatch.org/greeninfrastructure.pdf
・Calaza Martínez, Pedro. Infraestructura verde. Sistema natural de salud pública, Ediciones Mundi-Prensa, Madrid, 2016
・“Green Street”Environmental Services working for clean river https://www.portlandoregon.gov/bes/453
・Parsons,R., Tassinary, L.G., Ulrich, R.S. “The view from the road: Implications for stress recovery and immunization.”en Journal of Environmental Psychology, 18, 1998, pp.113-139. https://hortsciences.tamu.edu/syllabi/435/Articles/parsons.pdf
・Shandas, Vivek 「アメリカにおけるグリーンインフラ導入の現状と課題について」(原田宏美訳)、『日緑工誌』42(3)、2017年、pp.405-408.
・City of Portland Bureau of Environmental Services. Portland’s Green Infrastructure: Quantifying the Health, Energy, and Community Livability Benefits,ENTRIX, Inc., Portland, 2010 https://www.portlandoregon.gov/bes/article/298042
・City of Portland Environmental Services. Stormwater Solutions Handbook, Portland, 2004, p.5.
・U.S. Department of Health and Human Services. Physical Activity and Health. A Report of the Surgeon General, International Medical Publishing, 1996, p.136.https://profiles.nlm.nih.gov/ps/access/NNBBHB.pdf
・国土交通省 総合政策局 環境政策課 「グリーンインフラストラクチャー~人と自然環境のより良い関係を目指して~」